改正証券取引法によって、これまでは受益証券説明書を交付するという形がとられてきた投資信託についても、目論見書の交付が義稗づけられることになり、証券会社が事務的な対応に追われているだけに、電子目論見書の利用が可能になることの意義は大きいといえるでしょう。
新しい証券取引法では、「目論見書を交付しなければならない者は、内閣府令で定める場合には、当該目論見書の交付に代えて、当該目論見書に記載された事項を、電子情報処理組織を使用する方法その他の内閣府令で定める方法により提供することができる」とされています(第二七条の三〇の九)。
これによって、ホームペ九ンや電子メールを通じて目論見書を投資家に対して交付することが可能になりました。
この規定は、関連政省令の整備を待って、二〇〇一年六月一日から二〇〇二年六月一日までの範囲内において政令で定める日に施行されることになっています。
もっとも、この法律の条文だけでは、どのような場合に電子目論見書を交付したといえるのかは明らかではありません。
詳細は、今後制定される内閣府令などで定められることになるわけですが、筆者も委員として議論に参加した、金融監督庁(現金融庁)の金融サービスの電子取引等と監督行政に関する研究会が二〇〇〇年四月に公表した報告書「金融サービスの電子取引の進展と監督行政」には、投資家から事前に同意を得ることや、電子メールによる送付を基本としながらも、ホームページからのダウンロードなどの方法も認めるべきことなど、この点についての具体的な提言が盛り込まれています。
証券会社のオンライントレードーサービスでは、株式や投資信託などの売買注文をインターネット上で受け付けることができますが、取引が完了した後の事務手続きは、店舗や電話といった伝統的なチャネルを通じた場合と基本的に変わりません。
わが国の証券取引法では、証券会社は、有価証券の取引に関して取引報告書や受渡計算書といった書面を投資家に対して交付するよう義稗づけられており、これらの書面は、取引成立後に投資家の住所へ郵送されることになっています。
アメリカでも、こうした仕組みは基本的に同じですが、SECは、九五年十月の電子目論見書に関する解釈通達に続いて、九六年五月に第二の解釈通達を出し、証券会社などが投資家に対して交付することを義礎づけられている書面についても、電子的な送付を認めることにしたのです。
この通達の対象となるのは、証券会社や投資顧問会社が送付する取引報告書や残高報告書、運用状況報告書などです。
通達の内容は、電子目論見書に関する第一の通達とほぼ同じで、@電子媒体で得られる情報が紙媒体で得られるものと実質的に同じであることA電子媒体による送付の事実が投資家へ別途通知され、投資家が書面にアクセスでき、正しく送付されたことを確認するための措置が講じられていることB投資家が要求すれば紙の書面を交付することといった要件が満たされれば、書面の電子的な交付が可能となっています。
この通達で電子的な交付を認められた書面には、誰もが見ることのできる目論見書などの場合とは異なり、投資家の資産状況などプライバシーにかかわる情報が多く含まれています。
このため、通達では、証券会社等が電子的な書面の交付にあたってシステム上のセキュリティについて十分配慮することや、投資家が電子交付について十分に理解したうえで事前に同意するというインフォームドーコンセントの重要性が強調されています。
わが国では、取引報告書などの書面の電子化について、具体的な措置はまだとられていません。
しかし、先に触れた金融監督庁の研究会報告書では、目論見書に加えて、取引報告書などの書面について、ホームペ〜ンや電子メールを通じた交付を認めるべきであると提言しています。
具体的な交付の方法については、今後、法令や事務ガイドラインによって明示されることになるものと期待されます。
紙によって行われてきた書面の交付をインターネット上で行えるようにするための法規制の改定は、ある意味では、技術的な改正に過ぎません。
電子的な書面の交付を認めるべきかどうかという政策的な判断が加えられるとはいえ、ルールを定めてしまえば解決するという点では、それほど本質的な問題ではないともいえるでしょう。
しかし、インターネットは証券取引規制に関する、より本質的で解決の困難な問題を各国の規制当局に対して突きっけました。
それは、いわば「インターネットはとこにあるのか」という問題だといってもいいでしょう。
金融のグローバル化か進展するとともに、国境を越えて行われる、いわゆるクロスボーダー取引は、ごく日常的なものとなってきています。
それに伴い、様々な法的問題が指摘されるようになってきています。
しかし、インターネットが国境を越えるという問題は、郵便、電話、テレビ、ラジオといった従来型のメディアを通じて行われるクロスボーダー取引にかかわる問題とは質的に異なる次元にある、という点に注意する必要があります。
一般的なクロスボーダー証券取引は、電話やファクスといった従来のメディアを通じて、ある国の外にいる業者や証券発行者が、国内の投資家に対して勧誘を行ったり、国内の投資家から注文を受けたりするという形をとります。
こうした取引では、勧誘や受注を行う業者や発行者は、自ら取引の対象とする国や地域を特定することができます。
例えば、アメリカの業者が、日本向けにDMを送るといった例が考えられます。
また、こうした取引の対象となった国や地域の規制当局からすれば、自分の管轄内で勧誘や証券取引を行っていることは明白ですから、必要な届出や登録、免許といった手続きを守るよう求めるのが当然でしょう。
これに対して、インターネットのホームページ上で発信される情報は、特別なアクセス制限などを行わない限り、全世界のインターネット利用者に伝わってしまいます。
つまり、情報の発信者側で、受信される国や地域を限定することは難しいのです。
仮に、各国の規制当局が、自らの管轄地域で情報が受信されている(情報へのアクセスが可能になっている)ことを根拠として自国(地域)の法規制を守るよう求めたりすれば、世界中の異なる法令に合わせた手続きをとる必要が生じてしまい、インターネットを活用した証券取引は不可能になってしまうでしょう。
この問題は、アメリカでは早くから意識されていました。
というのも、アメリカでは連邦レベルの証券法規制に加えて、各州加州内での証券募集に際しての登録を義務づけるなど、州レベルで異なる規制が行われているため、国際的に議論される問題が、国内の問題ともなっているのです。
例えば、次章で詳しく紹介するスプリングーストリート社によるインターネット上での株式募集の場合、二十二の州で株式発行にかかわる登録手続きがとられていました。
しかし、その他の州では、スプリングーストリート社が株式を販売したり投資家に対する勧誘を行ったりすることはできなかったわけです。
スプリングーストリート社は、実際に株式を購入しようとする投資家が、登録手続きのとられた州の居住者であることを確認するようにはしました。
しかし、インターネット上に掲載された株式募集に関する情報が、投資家に対する勧誘行為に該当するとすれば、形式的には違法な勧誘が行われたことになってしまいます。
実際には、この点を特に問題にした州の当局はありませんでした。
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